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脳科学若手の会「脳・意識に関する小さなモデルと大きなモデル」

2014.7.19 脳科学若手の会 第12回談話会「脳・意識に関する小さなモデルと大きなモデル」

東京大学・駒場キャンパス・KOMCEE K402 にて
池上高志教授(複雑系・人工生命)

《とても刺激的な講演でした。たくさんのヒントがありました。以下、個人的メモなので、説明不足や抜けてるところはごめんなさい》


●イントロダクション
・今日は悩みを相談したい。
・スモールモデルからラージモデルへ。というトレンドがある。
・大きなモデルは役に立つのか?
・人工生命は「小さなモデルで生命現象を理解(実現?)したい」とする。その典型である。
 neural net なら、N(神経細胞数)がせいぜい10〜10^2
 化学反応のモデル(Gray-Scott 方程式:u = -uv^2 + f(1-u) + D1 など単純な複数の式で表現)
 I Sing Model
 (↑)いずれにしても、変数の数が少ないのが特徴。
 self-organization
・大きなモデルは登場したが、まだ「小さなモデルをやめよう」という話にはなっていない。

●具体例(従来のアプローチ)
・神経細胞12個の上を点が動くロボットのモデル(神経細胞:青い四角形=長くいるように学習と、赤い三角形=それとは対照的に離れるようにする)。環境も含めすべてがコンピュータの中にある。
・TVをビデオで写す。ビデオフィードバックのネットワーク。アート作品として制作。コンピュータ内部で完結せず、外部と接触している。

●ALIFE における、小さいモデルと大きいモデル
○「小さいモデル」
・環境がクリーンすぎる。コンピュータに世界全体をインストールするため。
・音:サウンドインスタレーションを体験して、教科書で読む世界(空気の振動が、フーリエ変換されて……云々)とは異なると気付いた。

○「大きいモデル」
・messy(汚い)環境へ。
・「アートは科学の持ち出し」(アーチストは科学者の成果を応用しているに過ぎない)? アートをやらないと気付かなったことがある。
・Massive Data Flow。(コンピュータの中に構築するのではなく)世界の中に構築する。
・Being There ← Andy Clark「現れる存在」NTT出版
・Being There は無意識と言い換えても良い。無意識は背後を支えるもの。

●脳のモデルはこれだ!と、言いたい。そんなモデルは作れるか?
○過去の「統一的なモデル」の例
・Friston の Free Energy Principle(Free Energy の最小化)
 脳は、ミクロの誤差をなくすようにネットワークが鍛えられてくる、とする考え方。だからベイズ的なのだと。
・Tononi(トノーニ)の Integrated I.T(Information Theory)
 (こう言っては悪いかもしれないが)gzipのようなもの。脳は効率的な情報圧縮をしている。
↑やはり、これらでは説明できないのでは?

●Massive Data Flow
・GA(遺伝的アルゴリズム)でも、Massive Data Flow の問題は解決しない。
・Web は心を持つのでは? Web は最も複雑な人工物であり、Massive Data Flow の身近な実例。

●池上教授の最近の関心
・Web に心はあるか?
・Perceptual Crossing Exp. 感覚交差の実験
 物理出身なので、人を介在させたくない。人間を排除しつつ、人間を調べる。デバイスを開発して。

●生命と知能の関係
・藤井氏(次回の講師。今日もいる)は、BeingThere は低解像度でもできると考えているのでは?
・深度は情報量で substitute(代用)できるのでは?
・石黒@阪大「高尚な知覚・認知を考える上で、そのベースに低俗なsexや食べるとかがあるだろう」。
 →まず、生命活動がある。その上に、知覚・認知がある(オマケのようなものかもしれない)。
・池上「生命を作らないと、知能は作れない」。

● Googleの論文
・HDFSファイルシステム(Google が使っている分散ファイルシステム「GFS」のオープンソース実装)。分散して情報を保存。いかに高速に情報を引き出すか。
・様式に従った大人しい論文ではなく、「俺は書きたいことを書くぜ」という論文。量子力学の初期の論文のような勢いがあって、イイ!

● AI と AL は対立している
・AL(力学系・カオスなどの研究者)は「フレーム問題は存在しない」とする立場。
 Damasio の考え方。好きなもの・嫌いなものしかない。フレーム問題の条件分岐などはない。
 内臓感覚的にわかるんだ!
・AI は、if 〜 then の塊。
・だが、Web を作ったのは、AI 的な技術だった。Google もそう。
・現実世界で使われている技術は、AL ではなく AI だ!
・hadoop consistency(一貫性)。
・hadoop 型の脳構造。
・AI と AL のアウフヘーベンが必要。

●質疑応答(その1)
Q. 大きいモデルで consistency(一貫性)を保つというが、生命を超えるものを作ったときに、それは小さいモデルになってしまっているのでは? consistency が無い方が生命っぽいのでは?
A. 小さいシステムにはならない。consistency には限度がある。ゆらぎがある。環境と相互作用させるロボットが being there に結びつく?かどうかは議論があるだろうが…。冗長性が作る being there。

●論文紹介
○Twitter は神経システムのようなもの、という論文。
・日本語ツイートの0.3%を2年間追った。3000キーワード。つぶやき数(population)を統計処理。
・曜日ごと、キーワードごと。
・神経発火パタンに似ている。
・あるとき、バーストする。
・ゆらぎの大きさとバーストの間に関係性があるか?
・ゆらぎが大きくなると、次に来るバーストは大きいことが予測できる。
・バーストは1回で終わらず、山になる。
 ピークをP、面積をSとすると、P/S=1(急峻なピーク)、 P/S<<1(緩やか)
 内因性と外因性。内因性だと穏やか。外因性だと急峻。
・興奮性媒質 excitability。揺さぶっているとバンと爆発する。
・神経細胞と同じように2つの状態(デジタル)をとる。

○蜂の背中にQRコードを貼り、行動を調べる(まだ論文化していないので、詳細は話せない)
・巣箱の中で単位時間にどのくらい移動したか?
・速度の2乗(x^2 + y^2)。これは運動エネルギーと言える。
・ある程度時間が経つと、運動エネルギーがバーストすることがある。
・巣箱が開けられた(外因性)で、騒ぎ出す。
・決してランダムではなく、元気な蜂の元気さが周囲の蜂に伝わっていく。相互作用。
・結果として生まれる全体の雰囲気がある。
・massive data flow の一例。

●質疑応答(その2)
Q. 普段の池上さんらしくない線形数学を使った研究(学生でもできる)。研究の先が見えない。
A. まさにその通り。個体群の中に「スーパースターがいるか?」を調べたかったというのもあるが、
・示量性(数)
・示強性(温度のようなもの)
脳の元気さの指標を示強性で示したかった。

Q. 「いっぱいあるものをいっぱいあるまま何とかしたい」が研究の出発点だったはず。これでは普通の統計力学の解析と変わらないのでは?
A. 示強性とは、数が変わっても不変のものがある。ということ。蜂の数が半分でも、脳が半分でも同じ強さのことがある。こうしたことを従来、唯一やってきた研究分野が熱力学だ。
切っても切っても変わらないものが「ない」としたら、このアプローチは失敗ということになる。「ある」ことを期待しているが…。
いろんな蜂がいることが重要なのか? 蜂の場合、女王を殺したら巣の雰囲気は変わるだろう。
データ自身が持つ「生き生きとした感じ」を取り出せるか?

Q. 構成論的アプローチについて。
A. 一貫性が生まれたら、そこに心がある、と考えている。複雑さのスレッショルドがある。質的に違うことが起こると思っている。まだブレイクスルーが作られていない。

Q. 切っても切っても変わらないのは、MDF(Massive Data Flow)とは反する(矛盾)のではないか?
A. 切らなきゃわからないことがあるかなあ、と思ってる。なぜバーストに注目するか? 下の層(レイヤー)にあるものが無視できるか?(ならば、置き換え可能になるだろう)。脳科学者は断絶はないと言うが…。
全部見なきゃいけないのは、理論としては破綻している。

Q. そもそも蜂の行動(騒ぎ方)に意味があるのか?
A. 中間層がないと、意識が立ち上がらないのでは? ライフゲームでは、下の層は置き換え可能だ。
どこかで断絶がないと、意識が生まれない。意識は「20%ある」「40%ある」ではなく、「ゼロ」か「イチ」かだと思う。

((休憩))

●研究紹介
・直感的デバイス Active torch
 IRセンサで近くに物があるとお腹が振動する。目隠しして、2時間くらい部屋の中を歩いていると、部屋の形がわかってくる。身体性。
・perceptual awareness scale
 感覚の気付きのスケール。
・perceptual crossing experiment
 暗闇で相手がいるか探すコンピュータゲーム(2人1組)。1次元上で移動。マウスクリックは1回のみ。成功確率を調べる。
 2人がマウス上に手を置き、アバタ(相手)を探す。「アバタ」を踏むと相手は感じる。「影」を踏んでも相手は感じない。
 相手が止まっているときに動く傾向が見られる。
 8秒以内に相手がクリックしていることが多い。
 確信度と being there(実在性)には関係性がない。
 これは相手だと思っても、確信度(強い実在性)が低いことがある。
・Dialogue in the Dark
 盲人が1時間案内してくれるアート。
 最初1分くらい怖い。そのうちに、慣れてくる。世界が立ち上がってくる。

●環境と知覚
・エブリディ・モチーフが成立しないところでは、環境もその中に埋め込まれた行為も知覚も成立しない?
・サイバネティックシミュレーション(廣瀬@東大)
 environment
 device
 human
 で(deviceを中心に)くるくる回る。

●まとめ
○Being there
「何があるか」deviceを作ると、こちらばかりが重要に思われがちだが、
「どうあるか」こっちが重要

○Massive Data Flow
中間層をとっかえ可能。しかも、半分に切っても平気。ロバスト。
 Mind  の下に
(中間層) ←ヘテロでたくさん
《こうした考え方は、「人工意識」を作るには必須だよね。と、佐藤は思った》

○その他
・シャーレ上の神経細胞。embodiment = device との間の相互作用。
・どういう device なら可能なのか?
・蜂の巣には年齢がある(若い巣、古い巣がある)。でも蜂は皆、新しい。
・クオリアも示強性の変数?

●質疑応答(その3)
Q. 最近の欧米の研究動向(日本も?)。脳全体をシミュレーションしようという。知能はできるか?
A. できると考えている。ダイナミックに経験させることが大事。

Q. 動物によって、感覚器が異なる。どんな知覚世界を目指しているのか? デバイスを作るときにも関係してくる問題。
A. 純粋に empty な世界には being there もない。とにかく生命を作らないといけない。

Q. 知能を構成するために、必要なもの・不要なものはあるのか(分けられるのか)? 先程の例で言えば、たくさん蜂がいる中で、全体の傾向に関与していない蜂を取り除いても機能するのか?《佐藤の質問・1》
A. リダンダントなロボットとミニマムなロボットの比較実験がある。リダンダントな方が移動するのに迷っていた。その代わり、行動の安定性が保証されている。

Q. ノイズに興味がある。ノイズの元を取り除いてしまうと、その(知能)系は動作しなくなると思う。本当の意味でノイズなんてものは無いのかもしれない。どう考えれば良いのか?《佐藤の質問・2》
A. まず、神経細胞はいつも教科書通りに動くわけではない。その日によって調子が悪かったりする。シグナルとして現れていない(水面下の)ものがノイズ。こういった下の層において、何らかのメカニズムが働いているはずだが、まだ人類は発見していない。

《佐藤の事後考察》
特に、知能や意識については、最終的にシグナルとして(電気生理学的に、in vivo でも in vitro でも in silico でも!)観察されたものが、実質的な意味で「シグナル」なのかどうか、まだ分からないのでは?(まだ人類にはそこまでの知識の蓄積がないのでは?)
水面下で蠢く「ノイズ」と呼ばれているものも含めて、総体で意味をなしている気もします。
「ノイズ」があることで実世界における知的な計算が上手く行く、そんな処理系にはロマンを感じます。
あるいは、たとえば(非常に極端な例で恐縮ですが)軸索上の伝播は有線LAN通信に相当するもので、脳は、軸索上を伝播しない無線LAN通信に相当するもの *も* 併用しているとしたら? 神経細胞は一所懸命、無線LAN通信をするために水面下で仕事をしているのかもしれず…(人はそれを「ノイズ」と名付けているのかもしれず…)。
もちろん、研究者としては「水面下を見ない人」と「水面下も見る人」で分業すれば良いのですが、個人的には水面下のノイズたちの意味にこれからも興味を持っていきたい!と思いました。

以上

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